コンピュータ・プログラムは

特許法上の発明となりうるか

 

〜知的財産権の保護範囲〜

 

 

始めに

1.    ソフトウェアとは

2.    知的財産権、工業所有権の歴史

3.    著作権法、特許法、商標法の問題点

4.    各法律の取り扱い

最後に

 

 

 

 

始めに

 

 現在、コンピュータ・プログラムは特許法で保護すべきかという議論が、特許庁でされている。発明とは、自然法則を利用した技術的創作のうち高度のもの(特許法2条1項)と謳われているが、プログラム自体は自然法則を利用したものでないから特許法では保護できないとされている。

 まず始めに、コンピュータ・プログラムを保護する法律、著作権法と特許法の違いを見てみることにする(表1参照)。

  

               表1

 

著作権法

特許法

権利の取得 創作の時点で発生 出願による
認可の条件 独自に作った著作物である事 新規性

進歩性

保護の対象 表現自体 アイデア
存続期間 死後50年 特許出願の日から20年

 

 特許法には、著作権法にはない独占排他権(自分の発明を独占使用することができ、他人が使用することを禁止することができる権利)があり、より厚く保護をすることができる。プログラムにもその特許権で保護すべきという説も出ているが特許庁の見解としては、プログラムを含んだ装置に特許権を与えているが、プログラム自体には適用されていない。

 これから、コンピュータ・プログラムの保護、また関連する法律(著作権法、特許法、商標法)の問題点を考察していくことにする。焦点としては、コンピュータ・プログラムは、特許法で保護すべきかどうかということに当てたい。

 

 

1.    ソフトウェアとは

 

 ソフトウェアとは、下記の1のことを指す。その中で著作権として保護されているものは、マイクロプログラム、言語プログラム、オペレーティングシステム、アプリケーションプログラムなどである。ここで、プログラム言語とはプログラムを表現する手段としての文字その他の記号およびその体系と定義する。

 

            1

      コンピュータソフトウェア

 
 

 

                              

2.    知的財産権、工業所有権の歴史

 

プログラム立法の歴史

年度

主な経過

1980 米国 著作権法改正
1982 米国司法省 対IBM訴訟取り下げ
1982 IBM 対 日立・三菱の産業スパイ事件

以後、IBM 対 日立・富士通の著作権交渉

中山氏、プログラム立法を提唱

日本 テレビゲーム訴訟判決

テレビゲームのプログラムを著作権で保護

1983 米国 連邦訴訟裁判所 OSの著作性を肯定

日本 通産省産業構造審議会 プログラム立法を答申

1984 日本 文化庁著作権審議会

プログラムの著作物性を認める中間報告

米国 プログラム立法への制裁を検討

EC プログラム立法への反対を表明

日本 プログラム立法を断念

1985 日本、 著作権法改正 プログラムの著作物性を確認

フランス・西ドイツ 著作権法改正

以後、プログラムを著作権で保護することが世界的に定着

 

 

米国の国策として、1980年に著作権法を改正して、コンピュータ・プログラムを著作権法で保護する。

中山氏は、1982年11月、コンピュータ・プログラムの著作物性を否定し、著作権でなく新たな著作法によりコンピュータ・プログラムを保護する事を提案した。

 

              中山氏の提案

.コンピュータ・プログラムは文化的なものではなく、経済効率を追及したものである。著作権は文化的作品の保護を目的とし、コンピュータ・プログラムの保護には適していない。

.著作権は著作物の改変や翻訳を禁止し、コンピュータ・プログラムに著作権を適用すると、ユーザーがプログラムを修正・改変する事ができなくなる。

.著作権での50年間の保護期間は長すぎ、保護期間を短縮すべきである。

.著作権法には強制使用権の概念がなく、オリジナルのプログラムを第三者が改良しても使用できない。

.ROMに記憶したプログラム(例えばOS)は著作物とはいえない。

.IBM機は事実上の世界標準であり、インターフェースに著作権を認めることはIBMの独占をもたらす。

.従ってプログラムの保護のために、特別法を立法する必要がある。

 

実際の問題としては、日本はベルヌ条約に加盟しており、条約を守らなければならないということと、プログラムの保護期間を短縮するのは、ベルヌ条約違反との問題を引き起こすことである。中山提案がなされた1982年の末には、米国でプログラムに対する著作権が確立し、EC諸国もこれを支持しつつあった。

 プログラムを著作権では保護しないと日本が宣言しても、その効果は日本しか及ばず、海外では依然としてプログラムの著作権がある。従って日本では著作権侵害とならないOSや応用ソフトが、海外では著作権侵害となる。これはコンピュータの輸出を妨げ、国内市場向けと海外市場向けの2種のOSや応用ソフトを開発する事を余儀なくさせる。予想される結果は、輸出型のコンピュータ・メーカーが苦境に陥る事で、また日本の国内市場のみを対象として、コンピュータ産業が成り立つかどうかも疑問である。この結果、国産メーカーの競争力は低下する。国際化が進むと、一国だけで保護的な法制を打ち出しても意味が薄れる。国際的な合意が得られないまま新立法を強行するのは自殺行為である。

1983年12月には、通産省の産業構造審議会がプログラム保護のための立法を答申した。中山氏と同様プログラムを著作権で保護する事を否定し、プログラム保護を定めた新法を設ける事であった。

 

新たに加えられた点

.プログラムの保護機関を15年とする。但しこの点は、後に20年間に修正された。

.裁定使用権を強調し、オリジナルのプログラムを改良したものなどに、裁定使用権を与える。

 

日本では、1985年に著作権法が改正された翌年の1986年1月に施行されたことによって、初めてプログラム製品の保護が始まった。

 

 

 

3.    著作権法、特許法、商標法の問題点

 

著作権法

 

著作物とは、思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものをいう(著作権法2条1項1号)。ソフトウェアのアルゴリズムないしアイデアは保護対象とせず、表現そのものであるプログラムの保護を考える。

 

著作権による保護の難題

1.ソフトウェアの表現とは何か

2.プログラム著作権の侵害判定の明確な基準はあるのか

 

著作権では保護の対象となるのは表現であり、その背後にあるアイデア、機能は保護しない。コンピュータ・ソフトウェアは、設計書や応用プログラム、プログラム言語、規約などから成り立つ概念であるが、このうち通信プロトコルやオペレーティング・システムなどの規約やプログラム言語は著作権法で保護しないとしている。

 

 

特許法

 

特許法での発明とは、自然法則を利用した技術的創作のうち高度のものをいう(特許法2条1項)。技術的思想を特許の対象とし、そしてアルゴリズムは明らかに技術的思想であるから、特許ではソフトウェア発明の本質としてアルゴリズムを考える。 

 

ソフトウェアについては、本来的には人為的な取り決めに従って記述された表現物であり、著作権の対象になるがプログラム単体では特許できない。しかし、ソフトウェアも時系列的な処理の組み合わせとしてシステム化されたり、ハードウェアと一体になって一定の機能を表現できる場合には発明として特許の対象になる。特許庁では従来からこのような発明をソフトウェア関連発明として認めていたのだが、現在ではH9年に確定した「ソフトウェア関連発明の運用指針」が特許庁での取り扱いの基本になっている。

 

1.ハードウェア資源に対する制御または制御に伴う処理(自動車エンジン用燃料噴射量制御プログラム)

2.対象の物理的性質または技術的性質に基づく情報処理(画像処理計算等)

3.ハードウェア資源を用いて処理する事

 

 

商標法

 

商標権を利用しようという発想もある。プログラムの名前を商標登録しておく。これで、プログラムのコピーを防ごうという発想である。米国ではロッキード社が自動車設計用プログラム「CADAM」にこの手を使った。

 

 

4.    各法律の取り扱い

 

発明や著作を独立した個人でないものがした場合、つまり企業の従業員やその集団が著作や発明をしたり、下請け企業でされるような場合。ソフトウェアハウスでソフトウェアを作成する従業員は、ソフトウェアハウスに対し雇用関係にある。雇用関係にある従業員の諸権利を、使用者は勝手に譲渡する事ができない(民法625条2項)。つまり従業員が考えた発明や著作物を会社が勝手に他人に売る事は本来できない。

次に、企業相互で、ソフトウェア開発契約のような、ものを加工して欲しいという契約では、検討しなければならないのが、民法の「加工」の規定(246条)である。ソフトウェアの著作権や特許権など形のない無体財産については、それが作成された場合、加工される有体物とは切り離して新たに別の権利が発生したと考え、それは依頼者側には移らないと解すべきであろう。ここで複雑なのが、発明者や著作者が従業員で、会社の命令で何かを作った時である。発明・著作が従業員によって行われた場合、その所有権は企業と従業員のどちらのものになるか。この場合に特許権と著作権では扱いがまったく逆になる。

 

間接侵害について

米国特許法271条C項

  Whoever sells a component of a patented machine, manufacture, combination

or composition, or a material or apparatus for use in practicing a patented process, constituting a material part of the invention, knowing the same to be especially made or especially adapted for use in an infringement of such patent, and not a staple article or commodity of commerce suitable for substantial noninfringing use, shall be liable as a contributory infringer.(何人であれ、特許された機械、製品、化合物あるいは組成物のコンポーネント、または特許された方法を実施するのに用いる材料または装置であって、その発明の物質的な部分であるものを、それがその特許権侵害で使用されるために特に作られ、あるいは特に改造されたものであって、本来特許権を侵害することなしに使用される、商業上の主要な物品または商品ではないことを知りながら、販売したものは、侵害幇助者の責めに任ずる。)

 上記の条文規定が、ソフトウェアの特許権に適用できるのか。これにはかなりの疑問がある。第一に、「生産方法の発明」の推定規定は、「方法の発明」や「物の発明」には使えない例外規定である。第二に、この規定はほかに同じような技術がまったくなく、その特許を使わなければならない規定である。だから改良発明などが特許されるような場合には適用できない。ソフトウェア発明の場合、考えにくいことである。

 

 

コンピュータ・プログラムが特許法上の発明となりうるか否か

 

 1.特許法上、発明とは、「自然法則を利用した技術的創作のうち高度のもの」をいう(2条1項)。

 発明は無体物であり、その定義も容易ではない。逆に、定義規定を持って保護対象を限定したため、種々の創作について特許法上の発明成立性の問題点が新たに生じるもとになった。コンピュータ・プログラムに関連した創作が中心であるが、これらが特許法上の発明に該当するか否かは。法上定義された発明の成立要件(自然法側の利用性、及び技術的思想の創作性)に照らし、法目的の有効的達成の見地から決定されるべきである。

 

 2.コンピュータ・プログラムの発明成立性

(1)コンピュータ・プログラムについては、PCT規則39.1で国際調査の

対象から外されているように、その発明成立性が国際的にも問題とされている。否定説の代表的なものは、コンピュータ・プログラムな人間の精神的・知能的手段または過程の表現であって一種の計算方法に過ぎないから自然法則を利用するものではなく、したがって、「発明」ではないものとするものである。一方、肯定説の代表的なものは、米国特許控訴裁判所(CCPA)がした判決、いわゆるウェアハウス説である。プログラムされる前のコンピュータは部品のウェアハウスに過ぎないが、プログラムがコンピュータに読み込まれた時、その物理的な構造の一部となる。そして、これら商品を有機的一体的に結合することによって特定目的に適合した具体的な装置を作り上げる配線または接続手段と同一視できるから、自然法則を利用するものである。

(2)思うに、コンピュータ・プログラムとは、コンピュータで情報処理を行

うための命令の組み合わせであり、その命令は人間が機械に読み込ませるために案出したプログラム言語によって表現される。したがって、原則としてコンピュータ・プログラムは一種の計算方法にすぎないから自然法則を利用するものではなく、「発明」ではないと解すべきである。

 これに対し、コンピュータ・プログラムを利用してその実施をする発明、すなわちプログラムがハードウェアと一体となってその性能を高めたり、制御したりする方法ないし装置はそのプログラムを構成手段のひとつとして発明を構成しうる。一部に自然法則以外の法則を利用する部分を含んでいても、全体として自然法則を利用していると判断される場合は発明に該当するからである。

(3)しかし、プログラムがハードウェアと一体となったとしても、単にコン

ピュータ装置を利用して数学的計算等の情報処理を行ったというだけの非物理的情報の処理に関するもの(ハードウェアの単なる使用の場合)は発明ではない。

 自然法則を利用していない数学的計算方法自体に特許を付与するに等しくなるからである。例えば、詰め将棋を解くプログラムのように、手法の因果関係が人為的ルールに基づく場合には、自然法則の利用という要件を満たさないことは明白であり、発明とするいわれはない。

(4)だし、プログラムによる情報処理が対象の物理的・技術的性質によって

なされている(手法の因果関係が人為的ルールに基づく場合等ではない)場合には、その性質が自然法則に関する性質に発しているものであるから、究極的には自然法則の利用であるということができ、発明に該当する。また、プログラムの手法がハードウェア資源(レジスター、中央処理装置等)を機能的に利用して構成されている場合には、手法の因果関係の如何を問わず、その構成手段に自然法則の利用がされていると見られるから、共に発明として成立する場合がある。これらの問題については、手法の因果関係、あるいは手段の構成自体が自然法則に基づくか否かによって判断すべきものと解する。

 なお、「プログラムを記録した記録媒体(FD等)」は原則として、情報の単なる表示であって発明には該当しない。しかし、コンピュータをそのプログラムに従って動作させる一要素である場合には物の発明として請求項に記載することができる。プログラム関連発明の保護の実行を図るためである。

 

 

最後に

 

 コンピュータ・プログラムを特許権で保護した場合、独占排他権が生じることにより第三者が使用できなくなるというのが一番の問題だと思う。技術などは、情報公開することにより、使用権などを払い使用することができるが、コンピュータ・プログラムは、そのようなやり方で保護をするのは難しいと感じる。

 しかし、著作権だけではなく、何らかの保護をすることは必要であろう。世界的基準を作ることも急がれると感じる。実際、商標権の問題(HPにおける写真、文字の使用)など、米国から、かなりの訴訟を起こされている。また、映画などの効果音にも権利を与えている米国は、これからも日本の企業に様々な訴訟を起こすことは必至であろう。

 思うに、今までの特許権は物品にかけていたが、これからは、物品以外のものにも、権利付与するような時代がくるはずである。社会が、ものすごく速いスピードで動いている今、法律の改正も、それに見合ったスピードが求められる。

 


参考文献

 

塩入明「日米特許摩擦」中央経済社 1993.

下田博次「知的所有権の恐怖」にっかん書房 1992.

豊田正雄「ソフトウェアと特許権」ダイヤモンド社 1992.

中川淳司 佐野稔「先端技術と知的財産権」日科技連 1997.

名和小太郎「知的財産権」日本経済新聞社 1993.

松倉秀実他「インターネット時代の法律入門」インプレス 1999.